フィーダー・インサイダーインタビュー 山口 歴

interview with MEGURU YAMAGUCHI フィーダー・インサイダーインタビュー 山口 歴

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Un-hidden Bucharest インタビューの最新版では、日本人アーティストの山口 歴が自己認識を巡る旅をどのようにして始めたのか、その旅の途中では誰が彼に影響を与えたのか、変わる事への渇望、自己の限界を押し広げ今まで見た事のないアートを創り出す原動力や、ブラッシュストロークを我々の生きる時代の表現へとまとめ上げていくなかで人々を魅了する力について我々に語ります。

山口 歴はまた、開催予定のニューヨークでの作品展について、街の風景の一部としてのミューラルという考え方についてや、成功の為のステップバイステップについても伝えています。

f: あなたは、常に新しくユニークで時代に即したアートを作ろうと励んでいますが、その事を社会的又は政治的スタンスやテーマ抜きにしてやろうとしているのではないかと思います。

あなたのアートの宇宙は、ヴィジュアル的に目を引く尽きないクリエーション・プロセスを表現し、限界や境界を越えて拡張し、観念の枠組み同様キャンバスの枠組みを乗り越えたフォームで構成されています。

鑑賞者として、解釈としての無限の可能性に考えを巡らせる私たちがいるのです。

それはさながら、想像したり楽しませてもらえる遊び場への招待状をもらったかのようです。

ボックス(箱、枠組み)のアウトサイドを探検してみようと決めた瞬間について、また、今日に至るまでのあなたの旅路においてあなたを導いた主な経験について教えてください。

Meguru Yamaguchi: この作品にたどり着くまで色々ありました。まず23歳でニューヨークに来て感じたのは、「自分はどこから来て、どこに(表現として)向かっていくのか。」ということ。ニューヨークは人種の坩堝と言われるよう移民も多く人種も民族も宗教も国も違う人間が集まっている街。街そのものが多様性を包容していて、皆自分の文化や国をリプレゼントしてました。地下鉄や街を歩くだけで否が応でも自分と向き合わざるを得ない。23年間生きてきて初めて、自分自身についてや自分の生まれた国、育った文化について考えました。

自分にしか出来ないオリジナルの表現とはなんだろう?

長い間自分自身を見つめてわかったことは、自分が小さい頃に夢中になった好きだったものや、見てきたもの、やってきたことが自分を知るヒントになるのではないかということ。小さい頃、自分は絵を描くのが好きでした。油絵を小1で始めてみんなと同じ絵を描くのが嫌でゴッホのストロークを真似してチューブからそのままキャンバスに描いていたこと。書道を習っていたこと。高校時代に影響を受けたストリートカルチャーや岡本太郎。自分は日本で美大にも行けなかったし、会社にも入れなかった。ニューヨークに移り住んでアジア人としての差別も受けた。

国境や社会のルールとはなんだろう。社会的にアウトサイダーな立場の自分。ルールに縛られたくない。枠を超えて既成概念を壊したい。それを表現したらいい。

“OUT OF BOUNDS”というシリーズは「筆跡」という大昔からある普遍的な価値を「四角/キャンバス/ルール/システム/概念」と言うものを飛び越えてそのものが剥き出しとなった形をというものを筆跡を通して表現したもの。自分が今まで見てきたものや、やってきたこと、全て合わさった時に生まれ、そしてそれが自分のシグネチャーになりました。小さい頃に絵を始めて、30歳を超えて初めてオリジナルの表現が出来たと感じました。それはまさに旅だったし、旅はまだ始まったばかりです。

f: あなたは以前、”日本文化の最大の強みは物事をミックスし新しいものを作る事だ”と言っていましたが、ヒップホップのサンプリングのアイディアにも似ていますね。

あなたのアートには多くの影響が見られます。例えばご両親ともにファッションデザイナーである事、若い頃におけるポップアートの世界との邂逅や日本の漫画に身をひたした事、十代にはヴァンゴッホ絵画との最初の出会いをしあなたはその生の表現が心に刺さり、のちにゲルハルト・リヒターやピカソの青の時代にインスパイアされ、1950年代の日本のグタイ運動にオマージュを捧げると同時に、バリー・マギー、Futura、Swoon等の作品と出会ったグローバルなストリート・アート・シーンの一員でもあります。あなたは現代アートを偉大な先人達の作品の反映と定義付け、自身の個人的な経験を基に現在の新たなエッセンスを自分自身の手で加え入れています。

あなたのウェブサイトとインスタグラムを見ましたが、いきいきとした色彩がミックスされていてポートレイトによりフォーカスされた初期作品と、例えばあなたの言葉によればキャンバス、ルール、システムだけでなく”ホワイトカラー”の期待やニューヨークでの人種差別、他の打開すべき局面を超える為のフリーダムを、ブラッシュストロークを通じ主張する”Out of Bounds”のような最新作群とで違いがある事に気付きました。またそこには、”Splitting Horizon”といったあなたの作品をインターネットで観た人の反応を基に作られた新しいアートもあります。

この変遷についてと、あなたのスタイルが洗練されてきたように思える過去5年間について、また現時点で何があなたをインスパイアするか、何があなたの関心を引くか、何をサンプリングし新しいビジュアルストーリーへと”書き換えて”みたいか、内面的なものを幾つかシェアしてもらえたらと思います。

Meguru Yamaguchi: 五年前はちょうどSNS上の友人達を描いたポートレートシリーズ「デジタルインプレッション」を辞めた時くらいです。この時考えていたのは、自分のやりたいことは本当に人の顔を描くことなのか?ということでした。

単純に見たことのないものを作りたかったんです。自分がやってることに飽きっぽいという性格もあるが、常に自分自身がワクワクしていたい。そのためには常にフレッシュなことをしていたいし、それを試していたい。

アーティストは一つの場所に安住は出来ない。スタイルを変えることがスタイルとなった画家ピカソのように。ただブラシストロークは何年も続けているけどこれをやることは飽きたことがないんです。なぜならコントロールしようと思ってもコントロール出来ないから。ある程度までは出来るようになったんだけど。100パーセントコントロールしようとしても、蓋を開けて見るまでは何が出るかわからない。だからずっと続けていられる。それを研ぎ澄まして行ったら結局「筆跡」という原始的なテーマにたどり着いた。筆跡をキャンバスに収めずに浮かせよう、と思ったのは岡本太郎の「もっとはみ出しなよ。」という言葉も大きかったんだけど、よく考えたら自分は小学生の頃も自画像を描いていたら紙の中に収まらずにどんどん紙を足して大きくなったり、普通の人と同じ表現が嫌だった。

今現時点では、常に新しいテクノロジーに興味があります。筆跡というサブジェクトを用いてそれを時代の表現に昇華していきたい。

あとこれだけインターネットが発達しているけど、一番大事なのは自分の身の回りにいる奴らだと思う。例えば最近どんな展示に行ったか、とか音楽どう言うの聞いてるかとか。彼らと過ごす時間や、会話の中からインスピレーションが降ってくる事がよくあるから。

f: あなたのウェブサイトから引用すると、あなたは”カット&ペースト”という新しい技法を発明しました。これは”絵の具をプラスチックシートにレイアウトして乾かし、それを切り取り、剥がして他のものの表面にペーストし、あたかも3次元のブラッシュストロークのようにする”ものです。

以前のインタビューであなたは日本の書道と西洋の絵画技法両方の影響が、規制からの自由さというあなたのアプローチを定義付けたと論じていました。また私たちはあなたの動画を幾つか見ました。

あなたを象徴するこの技法の進化について述べて下さい。新しい作品の制作をしているとき、スタジオのなか例えばAndrew Freedman Homeの場合とスタジオの外では何を感じたり思ったりしていますか?

新しい作品を作るにあたり、それはコンセプトの段階からどのように最終形態へと進化しますか?既に頭のなかでヴィジョンが出来上がっているのですか?

今迄やったことのない事のうちこれから試したい事は何ですか?

あなたが新旧の技法を組み合わせることを知った上で、又あなたの昨年12月のインスタグラムの投稿にインスパイアされたのでこれをお尋ねしますが、デジタル領域であなたの作品を鑑賞するチャンスはありますか?アニメーション化したり、仮想現実(バーチャルリアリティ)の体験として等です。

Meguru Yamaguchi: 新しい技術や作品は常に色々なところでチェックしています。将来的に自分の作品に取り入れるものは取り入れたいと思ってるけど、今まだここでは言えません。

f: 私たちが生きているデジタルな時代について言及しましたが、あなたはよくインタビューでソーシャルメディアについて語っています。あなたがTVを見ないことや初期作品の頃と比べて現在ではソーシャルメディアがそこまであなたの興味の対象ではなく友人や家族と時間を過ごす方を好んでいることは知っています。

しかし、それでもソーシャルメディアにはブランディングとネットワーキングにおいて重要なチャンスが数多くあります。現在、あなたとSNSとの関係はどのようなものですか?個人的においても職業的においても。

Meguru Yamaguchi: 今のように活動する前、自分みたいになんの学歴もギャラリーもついてない、後ろ盾もないアーティストが、絵を表現しようと思ったら発表する場が単純にSNSしかありませんでした。当時はまだインスタもなかった時代だからフェイスブックに新作を投稿して「良いね」をもらうことがすごい楽しみでした。例えば自分が作った料理を出して食べてもらって美味しいって言ってもらえるみたいに、コールアンドレスポンスがものすごい早いし白黒ハッキリしていた。時が流れてインスタグラムはもう誰でもやってるくらい当たり前になりました。雑誌もブログも自分は読まなくなった、なぜなら個人というメディアが力を持つようになったから。気になる人はダイレクトにフォローして情報を見ればいい。そういう風に時代はこの15年で変わったと思う。ただ自分もSNSをテーマにしていた事もあってアイフォンが手と同化するくらいSNS中毒ではあるんですが、次第にそういう風に「より良い自分を見せる」ことに疲れた時期があった。加工して元とは違う自撮りをアップする女性や誰かの旅行自慢、子育て、レストランの写真に心底疲弊してしまいました。さっきも言いましたが誰もがメディアを持つ時代だから、気づいたら自分とは無関係の情報がタイムラインに流れてくる。自分は画像やイメージも栄養だと思っています。何を食べるか、イメージも、より上質な物を摂取していたいから今は本当に自分が目にする情報は選んでいます。例えばニュース番組をフォローしていると、基本的に流れてくるのはネガティブなニュースだけですよね。誰かが誰かに優しくした、とかポジティブもたくさんあるはずなのに。笑 ただここで矛盾な話になるかもしれませんがアーティストは常に情報を与える側じゃないといけないのです。だから今の時代常に話題を作らないと行けない、ハイプな動き方をしないと行けないのもアーティストの生き方なんです。ただそう言ったインスタ映えするアーティストが増えたおかげで、今蔓延するアーティストの作品は一発ギャグ的な、瞬間的なチープなものが多いし若いアーティストを志す奴らもそれが正しいと思ってしまう。本当の意味でかっこいい奴はインスタなんてやってないと思うし。

だから自分が敢えてここでやりたいのはハイプな動き方をしながらも、見るものの心を鷲掴みにしたい。本物の作品をタイムラインにぶち込んでいきたいんです。

f: あなたのポートフォリオにはナイキ、チャリ&コー、ユニクロなど著名なブランドとのコラボレーションが含まれています。あなたはオリジナルのビジョンを妥協する恐れがあることから「コラボレーションが多すぎる事は悪くもなり得る」と述べていたこともあります。

そのような状況において、どのようにして自分のコンセプトに対し偽りなく居続け、又何を伝えたいですか?

これまでとは別の、どのようなビジネス領域においてあなたの作品が展示されてみたいと思いますか?

Meguru Yamaguchi: さっきも言ったように今のアーティストはハイプな動き方もしなくてはいけない。
全て含めたトータルでアーティストだから。

ただコラボレーションに偏りすぎるとただのコマーシャルアーティストで終わってしまうから、そういう意味でどのブランドとコラボするかは常に考えています。実際色々なオファーが来るけど今は断っている方が多いです。企業とのコラボは自分のイメージの一部だから。

あくまでコラボは自分の中でボーナスの様な物で、自分の作品を見てもらうというきっかけに過ぎないということ。本当に自分が見せたいのは自分が作ってる作品の方だから。

f: あなたは3月にアートフェア東京に新シリーズ「MOBIUS」を展示したり、マイアミのSCOPE Art Showでも展示を行いました。これらの作品が展示されたこれら最近のイベントについてコメントを頂けたらと思います。また、今年これから展示のご予定があれば教えてください。

Meguru Yamaguchi: 展示やアートフェアで自分自身がつまらないと思っている作品を出したことは一度もない。どんな展示やグループ展だって自分は毎回最後の一発にかける思いで作品を発表して来ました。なので上記の二つに限らず毎回自分の中では見たことがない、常に新作が一番カッコいいと自分で思う作品だと思っています。

6月にニューヨークのダウンタウンにあるGRギャラリーでエキシビションをやる予定です。今回はかなりガラッと変わった作品群を発表する予定です。

f: よりミューラルに関して言えば、あなたの最初のオフィシャルな作品は2012年(ブルックリン・ブシュウィックのBogart Salonにて)と2013年(チャリ&コーNYC)でした。あなたが他で述べていた通り、これより以前には多くのトライアル&エラーをしていました。

あなたの、一般的なストリートアートに対するアプローチとはどのようなものですか?そのパブリックスペースのバイブレーションを変えることの何が好きですか?

ストリートアートを持ち込む(ストリートアートの侵入を許す)のに良いと思う場所はどこでしょうか?東京、NY、または世界のどこかの空間や型にはまらない自由な場所でしょうか?

Meguru Yamaguchi: ミューラルの好きなところはまずスケール感。

ギャラリーの様なホワイトキューブで展示するのとは全く違います。自転車とスケボーくらい違う種類のもの。どっちが良い悪いではなく、双方良さがあるという事。

それにミューラルは街の一部として機能するという一面も持つ。ミューラルを描く場合の醍醐味でもあるけど街の空気感をガラッと変えてしまう様な大胆な構図やアイデアが必要とされる。はじめの頃はそれがわからずに苦労しました。街の壁面をただのキャンバスとしての壁面として捉えていたから。より引いて自分の作品を見てみる客観性が重要になってくる。

f: 私たちは地元や国際的に活躍する独立的なアーティストたちによるパブリックスペースでのクリエーションを56個の地図にし、一つのUn-hiddenブカレスト・マップとして製作しました。もしあなたがルーマニアのブカレストを訪れることがあれば、どのようなミューラル又は他のストリートアートをこの街に持ち込んでみたいですか?

Meguru Yamaguchi: もし出来るのであればとてもありがたいこと。その時は自分の描くミューラルを見て街の雰囲気や空気感をガラッと変える様な作品を作ってみたい。どんな壁になるかワクワクします。

f: 以前あなたは、好きなこと、大好きなことをやる事が成功だと定義付けました。またあなたはゴールを設定することが好きではないとも言いました。

ですので、あなたは目の前にあるタスクにフォーカスすることによってあなたの未来を作り出しています。

従って、新しいことと変化がその都度今という現在を結果付けると言えると思います。

この会話を終えるにあたり、feeder.ro読者に対し、あなたの人生の旅路を始めるときに是非聞きたかったようなアドバイスがもしあれば、又は、人が成功をかたちづくるにあたって、あなたが今迄の経験から得た学びを幾つか手渡してもらえたらと思います。

Meguru Yamaguchi: 自分の本当にやりたい事を見つけること。

やりたい事を決めるって言うニュアンスかもしれないが。それが決まったら人の目を気にせず走り抜ける事。インターネットの噂や、会ったことない人達、時として自分の親しい友人や兄弟でさえも自分のやってる事を否定するかもしれない。もしそうなっても自分のやってることに没頭すること。没頭できる様な環境を自ら作り出す事。比べるのは周りではない。常に昨日の自分を疑う事。そんな毎日を過ごしていたらきっと色々な事が後からついてくる。自分もまだまだ旅の途中です。お互い頑張っていきましょう。

Meguru Yamaguchi

www.meguruyamaguchi.com

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